富山地方裁判所 昭和28年(行)3号 判決
原告 斉田正雄 外十三名
被告 富山県知事
一、主 文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は、被告が施行せんとする富山県西礪波郡福光城端間の県道改築工事につき、福光町荒木地内荒木四千九百八十六番地より同町高宮地内高宮一千五百五十三番地に至る間に於て、日本国有鉄道線路に密着併行せしめる道路改築工事に公金を支出することはこれを禁止する。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、其の請求原因として、富山県議会は昭和二十七年度富山県歳入歳出予算に於て、県道福光城端線改築工事費を計上議決した。同改築工事は福光町南端を起点とし同町荒木地内に於て国有鉄道城端線の鉄道線路に完全に密着し、そのまゝ約二粁の間を鉄道線路に密着併行して高宮地内に至り、然る後、現在の福光城端間県道に接続せんとするものである。右工事計画が民間に伝わるや、地元住民有志は、之が都市発展上不適当であることと、交通事故発生の危険ありとの理由の下に、昭和二十六年五月から同年十月に亘り前後六回、西礪波郡吉江村村長福田俊夫、富山県土木部長、被告県知事及建設大臣等に対し夫々反対の陳述書を提出したのであるが、被告がこれを全く無視し、昭和二十六年十月初頭より土地収用法第九條による予定線の実地測量を開始し、昭和二十八年一月二十九日同法による事業認定を建設大臣に申請したので、原告等は同法第二十五条第一項に基く反対意見書を県経由建設大臣に提出した。他方原告等は同年六月八日、地方自治法第二百四十三条の二第一項の規定に基き、富山県監査委員に対し、被告知事の右違法行為禁止措置の請求をなしたところ、該請求は同年六月二十二日附を以て同委員の却下するところとなつた。よつて同條第四項の規定により原告等は富山県の住民として本訴を提起するものであつて、その根拠は該改築工事の遂行により人命に関する交通事故の発生が予見せらるるが故である。即ち改築道路が荒木地内より高宮地内まで国鉄の鉄道線路と完全に密着併行するの結果、附近に於て農耕に従事する住民及通学の児童乃至道路附近に遊ぶ小児等は、新道路より容易に鉄道線路に立ち入ることとなる。特に冬期に於ては、此地方は積雪数米に及ぶが故に道路も鉄道線路も、積雪に埋没するが、鉄道については、除雪車の運行により列車運行に支障はないが、逆に密接道路は、除雪車により跳ねられた除雪が道路上に重なり、為に道路の積雪量は増加することとなり、かくては通行人はやむを得ず除雪せられた鉄道線路を歩行するに至るべく、これ亦当然に予見せらるるところである。如斯、新道路の開設により、通行人に対し又は通行人に因る交通事故の発生は、単に可能予想の範囲を脱して、社会常識より見て、必然のものと断ぜざるを得ない。被告は、道路上の積雪は道路工事の出動により除雪し得るから、事故発生の原因とならないとの旨を建設大臣宛土地収用法による事業認定の申請書に記載し居るも、降雪ある毎に県よりわざわざ除雪人夫を差し向け除雪することが実行可能なりや否やは、常識的に見て不可能なることは余りにも明白なる事実である。
一面、荒木地内より高宮地内に至る地勢を見るに、平坦にして広大なる耕作田地であつて、強いて改築道路を鉄道線路と密着せしめねば開設出来ない状況ではない。鉄道線路と相当の距離を隔てて開設するも工事費に於て著しく増加する理由も発見できない。
元来道路新設の位置の決定基準についての規定は道路法、その附属法令中には存しないが、それだからといつて、道路管理者の自由な裁量に一任されているものとはいえない。道路は一般公衆の利用に供せられる施設であるから、その本質からして、利用者に生命身体の危険を来たすような位置に設置さるべきでないことはいうまでもないところであつて、他に設置する場所がない場合には危険防止に必要な施設を併せ施行すべきであることは当然のことであつて、このことは、道路法中に第二節道路の構造の項を設け、「道路の構造の原則、道路の構造の基準及び道路と鉄道との交さ」についてそれぞれ詳細な規定を設けている法意からもたやすく窺知し得るところである。されば本件の場合のように、他にいくらでも設置すべき場所があるのに、ことさらに道路利用者にその生命身体に危険を生ずる虞の多分にある位置に、本件道路の位置を定めることは道路管理者たる被告の権限を違法に行使するものに外ならぬ。従つてかかる違法な道路工事を施行する費用の支出は違法であるから、この支出の禁止を求める次第であると述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として原告等主張の請求原因事実中、富山県議会が昭和二十七年度富山県歳入歳出予算に於て、県道福光城端線改築工事費を計上議決したこと、右改築工事は福光町南端を起点とし、同町荒木地内に於て国有鉄道城端線の鉄道線路に完全に密着して高宮地内に至り、然る後、現在の福光城端同県道に接続せんとするものであること、原告等地住民有志が昭和二十五年富山県土木部長及被告知事に対し各々反対の陳述書を提出したが、被告は同年十月初から土地収用法第九条による予定線の実地測量を開始し、昭和二十八年一月二十九日同法による事業認定を建設大臣に申請したので、原告等は同法第二十五条第一項に基く反対意見書を県経由建設大臣に提出したことは認める。右新設道路は、伏木港より岐阜を経て名古屋に通ずる富山県綜合開発計画に基く主要幹線路線であつて、謂ゆる産業開発道路として最も緊急を要するもので、第一期工事として延長は福光町荒木五千五百三十二番の一、五千五百三十二番の三を起点とし、高宮二千二百四十九番の一に至る幅員六米五〇、予算総額金六百万円、用地は、地元負担として県へ寄附せらるべきものであつた。右用地買収につき、原告等少数の地主は極端に反対し、福光町当局に於ても手を尽して原告等と折衝を続けたが、遂に協議不調に帰したので、被告は止むを得ず、昭和二十六年十月二十日土地収用法第十一条の規定によつて立入り、予定線の実地測量を開始し、測量杭を設置したところ、原告等の内の一部の者が右測量杭二十本を抜き取り、暴力を以て工事の施行を阻止するの暴挙に出でたので、被告は右道路改築工事の予算を昭和二十七年度に繰越し、且つ予算を金五百十万円となし、昭和二十七年七月八日契約金額金三百四十九万円、竣功期日昭和二十八年三月三十一日として請負契約を締結した。然るに原告等との用地買収の協議は遂にならず、被告は前述の如く建設大臣宛事業認定の申請をなし、其の後同年九月三十日建設省告示第千三百二十四号を以て事業認定がなされたのであり、右工事の予算は昭和二十八年度に繰越され、改築工事敷地の地主総数四十七名の内、原告斉田正雄、同市川喜一郎、同水内与太郎、及同石倉与作の四名を除く者の敷地該当部分については盛土工事略完了ずみである。
原告等は右建築道路の危険を云為するが、現在の第一期道路改築工事延長一千二百十四米五〇の内、鉄道線路に併行する部分は約六百四十米の短区間であり、道路の幅員は六米五〇であつて、道路の東側肩より鉄道レールまでの距離は四米二〇で相当の間隔のあるものである。而して附近農耕住民の鉄道線路通行に関しては、鉄道に併行せる担々たる大道が存するに拘らず、殊更に通行禁止の鉄道線路を通行して自らの生命の危険を招き、処罰を受けんとするの愚をなす者は存せず、一般に鉄道線路を通行するのは、道路を通行するよりも遥かに近い場合であるべく、両者併行せるに拘らず鉄道線路を通行する者はない。本件鉄道の東側には殆んど人家がないから之を横断するの必要も生じない。又右道路を通行する小、中学生は、現在小林部落、高宮部落のもの約七、八十名の僅少なりと思料せられ学校の位置と右両部落からの通路を勧案すると改築道路の通行区間は僅かに一〇〇米程度であつて、学童と雖も殊更に危険なレールを好んで通行するの筈はなく、特に現場は見通しの十分利く場所であるから列車の通行は直ちに避けることができる。更に冬期の除雪車の運転並に道路上積雪の問題に関しては、一般に除雪車の運転は、夜間若しくは早朝一番列車運転時外に運行せられ、一般通行者の通行しない時間で、その速力は緩であり、道路と並行している場所は見透しが十分であるからレールを歩行する場合でも十分除雪車を避けられる。鉄道レールから道路の東側肩までの距離は四米以上もあり、道路通行者は飛雪の来る反対側を通行するから、レールより七米以上を離隔することとなり、除雪車の除雪、飛雪による危険は存せず、過去五ケ年間を通じ城端線に於て一米以上の降雪を見たことがないので、除雪車の運行は比較的に少いのであり、道路上の積雪はブルトーザ(県保有四台)又はモーターグレーダー(県保有三台)の内何れか一台の機械力を利用すれば道路の鉄道と併行している部分の一尺乃至二尺の除雪は十分間余で完全にできる。
以上のように本件道路は何ら人命の危険を招く虞れのあるものではなく、原告等の主張は反対のためにする誇張と杞憂にすぎないもので、現に富山県、石川県下に於て鉄道と接着併行している道路は被告の調査によるも七ケ所余りあり、此の種の事例は全国的には幾十幾百を数えるところであると思料される。
仮に原告等主張の如く、本件道路を鉄道線路より離れて設定するときは、その中間に於て利用のできない相当面積の窪地を生ずるに至り、一面本件道路と従前道路とを比較すると、後者は吉江部落と高宮部落の二ケ所に於て鉄道と交叉し、交通事故の発生の虞れ極めて多きに反し、改築道路は高岡市外の鉄道交叉点以南、城端線終点に至る迄鉄道と交叉するところなく、交通、輸送の現状と将来の増加に鑑み理想的のものである。被告が本件道路の位置を選定したのは、高岡市より福光町荒木までの区間及び城端より福光町山田までの区間は現在既に改良済みであつて、その中間未完成の本件第一期工事及第二期以降の工事路線の起点と終点とは確定不動であるから之を成可く直線的に連結することを考慮したものであり、地形的にも技術的にも亦経費の面からも他を以て替え難い法線を選んだものである。被告は昭和二十八年八月二十六日鉄道並行道路工事の施行に関して国鉄金沢管理局長に支障の有無につき照会をなし、同年九月十九日同局長より了承の旨の回答を得、土地収用につき前述の如く建設大臣の事業の認定があり、原告らを除く沿道住民の熱望もあり、被告の本件道路の位置決定は、毫も違法に権限を行使したものと謂うを得ない。
尚、地方自治法第二百四十三條の二の第一項に所謂公金の不法支出とは法規違反の公金の支出の謂である。本件道路工事改築工事費に就いては用地は地元負担であり、工事は請負に附したものであり予算は県議会の議決したものであつて、違法に支出せんとするも、できるところでなく、法規違反の支出の虞れは何れの点に於ても想像できない。と述べた。(立証省略)
三、理 由
原告等主張の請求原因事実中、富山県議会が昭和二十七年度富山県歳入歳出予算に於て、県道福光、城端線改築工事費を計上議決したこと、右改築工事は福光町南端を起点とし、同町荒木地内に於て国有鉄道城端線の鉄道線路に完全に密着して高宮地内に至り、然る後、現在の福光城端間県道に接続せんとするものであること、原告等地元住民有志が昭和二十六年富山県土木部長及被告知事に対し各々反対の陳述書を提出したが、被告は同年十月初めから土地収用法第九条による予定線の実地測量を開始し、昭和二八年一月二十九日同法による事業認定を建設大臣に申請したので、原告等は、同法第二十五条第一項に基く反対意見書を県経由建設大臣に提出したことは当事者間に争いがない。
原告等は本件改築道路は人命に危険を生ずる虞れが多分にあり、かゝる路線の決定は被告の権限の違法な行使に外ならず、従つてその工事に対する公金の支出も違法である旨主張するが、本来地方公共団体の住民は、住民自体としては、右公金の支出について何等その適法性を争い、その制限禁止等を請求する具体的な法律上の利益は有していないのが一般であるところ、ただ、地方公共団体の経済的基礎をなす公金其の他は、その住民が納付する租税、公課及び手数料等の収入によつて形成せられ、その使用管理処分は、法律及び住民の多数意思の発現である條例の定めるところに従い、専ら住民全体の利益の為に行われるべき性質のものであるから、当該団体職員が法律や條例に違反し、又は私利を図る目的で、その任務に背いて使用、管理処分をする場合には、これを防止し、又は匡正する適当な方法を講ずる必要が生ずる訳であり、この為地方自治法二百四十三條の二の規定によつて特に、実質上の被害者は住民であるから、その住民に対して、違法な公金の支出の制限、禁止等を裁判所に訴求し得べき権利を認めたものであつて、いわば民衆訴訟の一種ともいうべく、その性質上厳格に制限的に解釈せらるべきであり、結局「違法な公金の支出」とは、当該職員の職務に関する法令又は條例の規定に違反した公金の支出、乃至はその支出が当該職員の横領、背任等の刑事上の犯罪を構成する場合をいうものと解するものが相当であり、かくの如き場合にこそ、正にその制限禁止の裁判請求権を住民に認めることが必要であり、且つそれで十分であると思料せられ、それ以上に広く原告等主張の如き場合をも、本條項にいわゆる「違法な公金の支出」ありとして原告等にその制限禁止の裁判請求権の行使を認めることは許さるべきではない。同法條が地方自治法の財務の章中に存することから見ても、その趣意が右の如く、当該団体職員の所謂経済的腐敗行為の防止、匡正にあることは明かである。
然らば原告等の主張は、右の「違法な公金の支出」についての主張なきに帰し、その請求自体理由がないと言わなければならないから、之を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、第九十三條第一項本文に従い主文の通り判決する。
(裁判官 藤田善嗣 松田数馬 新田圭一)